
十和田市立中央病院 院長
蘆野 吉和
Ashino Yoshikazu
十和田市立中央病院が開院し、平成20年をもって丁度50年目になります。この50年間の医療の発展はめざましく、病気の診断方法や治療方法が飛躍的に進歩し、治る病気が増え、結果として日本人の平均寿命は飛躍的に延びました。しかし、医療が発展し、平均寿命が延びたといって、地域の人々が安心して暮らせるようになったのでしょうか。人々が幸せになったと実感できるでしょうか。
現在、医療現場は非常に深刻な問題を抱えています。病院勤務医および看護師不足による医療提供体制の弱体化、医療不信と医療訴訟、病院経営の悪化など、もはや病院の努力だけでは地域の医療体制を支えることはできなくなっています。
一方、地域社会も「いのち」にかかわる深刻な問題を抱えています。日本の多くの地域において、安心してお産ができる場所が非常に少なくなり、手術を受けるにも1ヶ月以上の待機期間が必要となり、深夜の救急医療は簡単には受けられない状況がごくあたりまえになってきました。また、傷害や殺人事件の増加、自殺の増加、そして食の安全に関わる事件の多発など、大切な「いのち」がぞんざいに扱われ希薄になっていることを感じます。

このような社会状況の中で、医療従事者および地域住民は強い危機感をもって対応しなければならない時代となりました。生まれ、育ち、生活し、そして看取り看取られ、つなぎつながれていく「いのち」を地域の中でどのように支え守っていくのか、真剣に考える時期が来たと思います。病院はこのための強い支えとなり、「生活する人間の視点に立った、安全で質の高い医療を効率よく提供するため、医療・介護・福祉との密接な連携をはかり、急性期から回復期そして在宅医療までの切れ目のない医療提供体制を確立する」ことがこれからの病院の役割となります。
これまでのように、「行けばなんでも診てくれる病院」「治るまでゆっくり入院できる病院」ではなく、病院と診療所(かかりつけ医)との密接な連携の輪の中で、また、病院と地域の福祉介護機関との連携の輪の中で、「いざとなったら頼りがいのある病院」「医療を受ける人にとって魅力ある病院」に脱皮する必要があります。

また、病院で働く医師や看護師が少なくなっている現状の中で、急性期病院としての役割を充分に発揮でき、「医師や看護師にとって魅力のある病院」にならなければ医師や看護師は集まりません。
私は、新病院が完成したこの機会に、“新しい器に新しい魂”を注ぎ込み、医療従事者にとっても地域住民にとっても魅力ある病院づくりを始めます。あたらしい魂とはホスピタリティー(おもてなしのこころ)、思いやりのこころ、寄り添うこころです。
地域の人々が安心して暮らし、少なくとも不幸ではないと実感できる地域社会を創ることが、医療の最終的な目標であると考えます。そして、この目標を達成するための地域住民と一体となった取り組みの中から、本当の意味での上十三医療圏の中核病院が生まれるものと思います。